『ヴァニティ・フェアー』の1929年1月号に発表された。
1.アリとキリギリス
キリギリスは芸術家であり、その労働は多くの芸術家のように、利益がなく、その余暇は陽気で費用がかかる。反対に、アリはその共同体の支柱である。彼は常に会社に行き、一日に十四時間働き、一ペニーにいたるまで節約する。
時が過ぎた。アリの資本は年々増え、キリギリスのものは年々減っていった。「この若者は」とアリは予言した「ろくな最後を迎えないだろう」。そして彼は偽善的にため息をついた。しかし、密かに彼は喜んでいた。才能がなく、よく働き、自己否定的なすべての虫のように、幸福なものに羨望と悪意を懐いていた。彼は才能、知性、精神的な質が生まれつき優れているものに恐れを懐き、憎んでいた。彼はあらゆるものの生を陰鬱な労働であり、退屈であり、自分と同じように無駄で空虚なものにしたがっていた。あらゆる寓話にもかかわらず、世俗的な成功によっているべき貧民街から抜け出て、楽天的な陽気さを示す才能を見るほど悩ましいことはない。凍結によって死ぬこともなく、冬を冬眠して過ごす蝶の光景などは一週間彼の食欲を失わせるに充分だった。彼の最も大きい喜びは、自分より美徳もなく才能もないものが不幸になることを観察し、そこから有望な道徳を引きだすことにある。
最終的に、破産したキリギリスが金を貸してほしいとやってくる長らく願い待ち望んだ出来事が起こったとき、アリは道徳的義憤に、陳腐で勝利に満ちた「いった通りだろう」という調子で悪意のこもった説教を行った——いや、そうではない。もっとも高度な倫理的社会的根拠に基づいて、一ペニーも貸すことを拒んだ。
数日後、蜘蛛が歴史的な最後通告としてまるはな蜂を送り込んだ。戦争が宣告された。じが蜂やスズメバチ、ミツバチはすぐにまるはな蜂の側についた。アリとシロアリは古くからの同盟軍で蜘蛛に向かった。すぐに、世界中のあらゆる虫が抗争に巻き込まれた。キリギリスも軍に編入された。アリは家にいて、二年間で財産を三倍にし、(有徳な虫の慎重さでもって)上流に貸し付けし、国債に投資していた。戦争が終わると、彼は億万長者になっていた。三ヶ月もすると、アリ国の通貨は暴落したが、累積した財産は、もはや通貨交換はされなくなったが、一週間のパンとマーガリンを蓄えるのに足りるほどだった。
しばらくして、株と証券で向こう見ずな賭に出たキリギリスは世界で四番目に豊かな虫になった。このことの道徳は、慎重さと美徳とはその美点にもかかわらず、常にそれに見合った報酬を得るとは限らないということである(ありがたや、と我々は合唱できよう)。
しかしこの話には続きがある。貧しくなった古い友人が助けを求めてきたとき、過剰な親切さという悪徳をもっていたキリギリスは、即座に巨額の小切手を書き、利害に関心を抱くことを拒んでしまった。アリは借りた金を二つに分けた。一方で金融に関わるジャーナリストを買収して市場に恐慌を起こした。他方で、充分パニックに襲われたキリギリスが売りにだした株を急落した値段で買い付けた。そしてその過程で、価格は再び上昇し、アリは再び非常に豊かになり、キリギリスは比較的貧しくなった。
このことの道徳は明らかである。授けられたものは常に善に対する防御壁でなければならず、善は彼らの本来的な敵であり、その美徳と才能のあいだには終わることのない戦いがあり、これからも続くだろう。
II.蛙とその王様
指導者のない蛙たちはジュピターに王を願った。ジュピターは彼らの祈りを聞き、彼らの池に丸太を投げ込んだ。水しぶきは蛙たちのあいだに警戒を呼び起こした。しかし漣が収まると、隠れた場所から出てきて、新たな支配者に敬意を表した。親しむにつれて彼らの尊敬は軽蔑に変わり、数日後には、蛙たちはなんの反応も示さない王によじ登り、跳躍台や日向ぼっこの場所に使うようになった。
時が過ぎた。丸太王の穏やかな治世のもと、蛙たちは増えて数倍になった。愛国的両生類の満足がいくように、蛙の数は跳ね上がった。「わが偉大なる成長する国」と蛙のジャーナリストは書いた、「増加する数は我が国の偉大さと道徳的進展の間違いのないしるしである」等々。
しかし、数年が過ぎると、池は密集して快適さを失っていった。虫や浮き草、蚊の卵やナメクジ、カゲロウなど生活に必要なものの価格は恐怖を感じさせるほど高騰した。スイレンのなかの最適な区画は借りることが禁止された。池の中央にある工業地帯は怖ろしく混み合っていた。ヤナギの根にあるスラムは——筆舌に尽くしがたいほどひどかった。思慮深い蛙たちは、出生率が最も高いところがもっとの最悪の地帯だと苦しげに観察した。バトラチアの、余暇をもち専門職にある者たちの階級では、著しく出生率が低かった。彼らのあいだでは避妊の実践が広まっていたのだ。過去には六千から七千の卵を産んでいた女性蛙たちは、いまでは六、七百しか産まなかった。
反対に、スラムの住人たちは、無謀に卵を産み続けた。もっとも表面的な観察者でも、数多くの変形した、くる病や、白痴や、なかば狂ったオタマジャクシが池で泳いでいるのに衝撃を受けた。同じ割合で進んでいけば、数年後にはバトラチアの在庫が完全に取り返しのつかないほど減ってしまうことは明らかだった。質の低下は人口量の増加と運命的に結びついており、バトラチアの最優秀な統計学者によれば、池の資源が住人の数に対して不十分になることは遠くなかった。
代表団は王を待ったが、丸太は問題を扱うために踏みだそうとはしなかった。ベンサムやジョン・スチュワート・ミルの自由放任学派によって育てられたに違いなかった。最終的に、バトラチアの聖職者がジュピターに対して荘厳な訴えかけをした。「主たるジュピターよ、」と彼らはゲロゲロといった、「あなたの王は我々の役に立ちません。彼は行動せず、政治的観念は時代遅れで、現代生活の問題を扱うことができません。」
ジュピターは蛙たちの忘恩と変わりやすさに驚いた。「よろしい、」と彼は答えた、「新しい王が望みなら、得るであろう」非常に大きなコウノトリが送られ、宗教的儀式の真ん中に降り立つと、自制できないままに枢機卿とバトラチアの指導的聖職者の半分を飲み込んだ。残りは睡蓮の葉から飛び降り、深い安全なところまで泳いでいった。新たな王の食欲は底なしだったので、あっという間に池の人口は半分以下になった。
ジュピターのユーモアのセンスは粗雑で、悪ふざけ以外のジョークを理解できなかったので、池の様子をまごうことなき満足な様子で見つめていた。「新しい王は気に入ったか」と彼は少したったのちにもっとも賢い蛙に尋ねた。嫌悪をもちながらも、年老いた蛙は、自分も友人たちも情け深い王に非常に満足していると答えた。
「満足?」とジュピターは繰り返した、別の不満を聞くことを予期しており、そのときには蛙たちに気まぐれについてのよい説教をしてやろうとしていたのだ。「満足している?しかし彼はおぬしらの半分を食ったではないか。」
「それこそまさに我々が王に感謝していることです」と賢者蛙は答えた。「より強く、より知的なものだけがなんなく王のくちばしから逃れることができます。犠牲になるのは精神や身体が脆弱なものだけです。確かに王は民衆の半分を食べました。しかしよりよい半分が残ったのです。不適合者を皆殺しすることによって、彼は我々の種族の退化を防ぎ、政治的問題を解決し、我々の社会的悪――スラム――の叫びを消し去ったのです。彼は価値の下落と人口の増大の原因となった餓えの解消を保証してくれたのです。彼の支配は、一言で言えば、長い目で見れば慈善なのです。王をどれほど高く評価してもしすぎることはありませんし、このような立派な王を与えてくれた、主たるジュピターよ、あなたにもどれほど感謝しても足りるものではありません。」
「そうか、なんてことだ」とジュピターはいった。
III.狐と烏
ある烏が木の枝にとまっていた。たまたま一匹の狐がその下を通りかかった。狐は空腹だった(狐は慢性的に空腹なのである)。烏はくちばしに一片のチーズを挟んでいた。とても大きいわけでもなく、特によいものでもなかった。しかし、狐はおごった口をもってはおらず、どんな小さなつまらないものを拾い上げても尊厳が下がるとは思ってもいなかった。そこに彼の成功の秘密があった。
「こんにちは、お嬢さん」と彼は烏を見上げていった、「一目見ただけであなたがとても感受性に豊かで、芸術的な魂をもっていることがわかりましたよ、無理解な者たちと同じ趣味をもたない者たちのあいだでは、あなたの本来の才能を伸ばすことはできないでしょう。」
烏はまんざらでもなさそうで、より注意深く聞くために頭を立てた。
「自己紹介をさせてください」と狐は続けた、「私の名は狐で、仲間を助けることを使命としています。特に私が力を注いでいるのは、人格の発達、正当な幸福の実現、成功の達成で、私はそれらをほんのわずかの料金で教えていますが、成功しなかった場合には返金することになっています。あなたの場合には、お助けできることがわかります。誤解された魂というのは私の専門の一つですから。どうか自己表現の手助けをさせてください、自己表現とともに成功、幸福、富が訪れるのです。」
「喜んで」と烏は不明瞭に答えた。というのも、くちばしを開くことなく話し、言葉はチーズによってこもってしまったからだ。すべての女性同様、彼女も自分の魂について語られることを好んでいた。自分が誤解されており、誤解されやすい性格をしているといわれて、得意になった。
「ではお話ください」と狐はいった、「あなたの特殊な才能はどんなもので、私的な野心はなんです。銀幕であなた自身を表現することをお望みですか。それとも、短編小説や広告の書き手として富と名声を得るのが夢ですか。」
烏は頭を振った。
「多分ミケランジェロやダナ・ギブソンの例に霊感をうけて彼らに続こうというのでしょう」と狐は続けた、「もしそうなら、あなたを六週間で、巨匠にすることを保証しますよ。書くことができるものなら、描くこともできるものです。テーブルクロスに染みをつけるものならば絵を描くこともででます。よい趣味と芸術についての私の通信教育は、十分満足のいくものだろうし、科学的でもあります・・・」
しかし、再び鴉は頭を振った。
狐は落胆はしなかった。「もし最高のセールスレディになることをお望みでしたら、」と彼は続けた、「あるいは歯医者になる、有能な助産婦になるという薔薇のような夢を見ていらしているなら・・・」
「いいえ、いいえ、」と鴉は注意深く、チーズの隙間からほとんど聞えないような声で語った「私はミュージカルが好きですの」
「みゅーじかる!」狐は叫んだ、「そうだと気づくべきでした。芸術のなかでももっとも神聖な音楽!私のハリトキシック的体系によるピアノ教育では、練習の退屈な必要は完全になくなります。」
「でも私は歌い手です」と鴉は言った。
「なおさらよろしい」と狐は答えた。「私の声形成獲得学習過程を取ることです。学生は学んでいるあいだにミュージカル・コメディーやグランド・オペラの役を取りました。」
「本当なの」と烏は大いに興味を見せた。
「本当ですとも」と狐は実績のあるものの確信をもって答えた。「でも教科にはいる前に、あなたの歌を聴かねばなりません。すぐに歌ってもらえますか」
既にカルメンかマルガリーテ二成りきった烏は、頭をそらすと高いCの音を出した。チーズは嘴から落ち、狐は落ちてきたものを受け取ると、すぐにのみ込み、口を舐め、急いで去って行った。その間、鴉は恍惚として歌っており、音楽のこと以外頭になかった。そのカーカーなく声が調度そのとき後ろを飛んでいたわたりガラスの耳に入った。隣の枝に止まると、わたりガラスは注意深く歌を聴いた。彼女が歌い終わると「ブラボー!」と叫んで、黒人のキャバレーの経営者であるかのように、場所を空けた。烏は喜んで申し出を受け、短い時間ではあったが、この国でもっとも称讃された有色の演者だった。
愚かさが幸運と結びついて狡知に至ることをこのことは示している。
しかし、その大半は一時的なものである。烏が狐にチーズを与え、教科課程に入ったのであるから、その料金を払う必要があることを根拠に、狐は最初の日のもうけの十パーセントを支払うべきであることを証明した。いうまでもなく、彼の言い分は通った。
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