1.物の分化に反比例する人間の行為の分化。かつて、寺山修司は、確か三島由紀夫との対談のなかで、歯磨きの仕方が変わったときにはじめて革命が起きるのだといっていた。もちろん、それは比喩的な意味で、習慣として生活のなかに組み込まれている行為が変わるときに、革命といえるものが生じるのだといいたかったのだろう。しかし、私が幼いときには、歯磨きとは歯ブラシを横に動かすもので(つまり歯並みとは直角に)、歯並みにそって縦に動かすものではなかった。また、私は使っていないが、電動歯ブラシでは、手を頻繁に動かすものでもなくなっている。しかし、革命といえるものは生じていない。習慣は実はテクノロジーによって容易に変化してしまうものなのだ。
習慣になっているいくつかの行為が役に立たないこと、身体の操作に基づく
日常生活のリズムの切断からは、深い心理・生理的な結果が生ずる。事実、真
の革命が日常のレベェルで生じている。今日、物は物とかかわる人間の行動よ
りも複雑になっている。物はしだいに分化して行くが、われわれの行為はしだ
いに分化しなくなっている。このことは次のように言いかえることができる。
物は、物が役を演ずる行為の劇にもはや囲まれてはいない。物はその目的性の
ために、人間は脇役を演ずるか観客になっているところの全体的なプロセスの
なかでの俳優のようなものになっているのが現状である。
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