電気石板ノート
2014年10月3日金曜日
幸田露伴『評釈冬の日』初雪の巻31
秋蝉の虚に声きく静かさは 野水
秋蝉は秋の夕陽に鳴く赤褐色の羽をした蝉で、俗に油蝉というものである。その殻に声を聞くとは、「闇の世に鳴かぬ烏の声聞けば生まれぬさきの母ぞ恋しき」という禅歌のように、また「片手の音を聞いて見よ」という公案のように、ただ禅の問答のおもむきを秋の季をもたせてつくったものである。前句とのかかりも自然に理解される。この句の意味がわかりにくいなどといえば、まったく野水に翻弄されてしまっている。
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