2014年10月20日月曜日

幸田露伴『評釈冬の日』しぐれの巻2

氷ふみ行く水のいなづま 重五

 この句もまた理に落ちず、葛藤を超え、発句と照らしあっていて面白い。氷の上で雨がはじけるさまを稲妻に例えて急変する天気のことをあらわしたのだとする解釈は、微妙な趣と生き生きした瞬間を台無しにするものである。人が薄氷を踏んでいくときに、氷が破れ水がほとばしり、みしみしという響きとともに、つつっと氷の上を水が流れるのを水の稲妻と作った。天候は寒く、地は凍り、雲が早く流れて動物がすくむようなとき、まさにこうした情景がある。この句、言葉遣いに無理があるように見えて、現実を生き生きと再現している。発句には「月とり落す」とあり、この句では「氷ふみ行く」とあり、発句に添いながらもしかも相競い、猪が天台の石橋で荒れ狂うときに、顔を伏せたときもあげたときもそれぞれに神威が備わっているようなものである。

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