2014年9月11日木曜日

幸田露伴『評釈冬の日』初雪の巻22

三絃からむ不破の関人 重五

 貞亨二年三月、「菫草の巻」の歌仙に、叩端の句、「虚樽に色なる草をかたげ添へ」というのに、桐葉がつけた「芸者をとむる明月の関」という句がある。あたかもこの句の裏を行ったもののようである。ここの一句は、関の手形のないものが、遊芸のものだと名乗って、三味線をかして下さい、ひとつお聞かせしましょうといっている体である。だが、不破の関は早く廃れてしまったので、関もなく関守もいないのはもちろん、手形に変えようとした三味線の一手の必要も自ずからないことになる。

 これはただ篠深く柿の帯がさびしいところで、ここが不破の関屋のあたりだと聞いて、旅人の自分は手形もないが、幸いに三絃は弾けるので、芸人だといって通ろうなどと冗談めかしている様子である。同行するものが、あなたの三絃ではおぼつかない、「吉野の山を雪かと見れば」の一手しか知らないじゃないか、などといって笑い合うさまが思われて面白い。美濃は柿の名産地として有名なことなどは注するにも及ばないだろう。

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