2013年12月30日月曜日

パウエル=プレスバーガー『黒水仙』(1946年)



原作:ルーマー・ゴッデン 
脚本:パウエル=プレスバーガー
撮影:ジャック・カーディフ
音楽:ブライアン・イースデイル
出演:デボラ・カー、ジーン・シモンズ

 『赤い靴』は随分前にみて好きだったので、パウエル=プレスバーガーの『黒水仙』は名前だけは知っていた。ところが、その題名から、ノヴァーリスの『青い花』や泉鏡花の『黒百合』に似ているせいもあって、またビデオやDVDのジャケットが尼僧姿であることもあって、絶対の探求を目指すようなロマン主義的な映画かと思っていた。今回はじめて見て、とんでもない間違いであることがわかった。

 修道女たちが教育や医療の援助もふくめた布教のためにチベットの奥地に送られる。率いるのはデボラ・カーで、指導力も責任感もあるが、恋人があり、結婚寸前までいった過去もある。修道女のなかには問題児も含まれていて、反抗的で、戒律を破って男に会いにいく。ただそれだけではないのは、彼女がデボラ・カーの無意識の願望を映しだしていることにある。つまり、否定的な、黒いナルシスであるわけだ。

 反抗的な修道女は次第に狂気に陥っていき、デボラ・カーの修道女長が自分の恋愛を阻んでいると思い、彼女を殺そうとする。『青い花』や『黒百合』よりは、ドン・シーゲルの『白い肌の異常な夜』に近い映画だったのだ。

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