この口はどうしてそんなに大きいの首までつかれる赤ずきんの湯
暗黒の深夜の蔭の闇だまり鏡に映るアリスの左手
あずまやに千鳥格子の掛け布団むくむく動くアリスの宮夫妻
姫りんご身ぐるみ剥いで差しだすは西方浄土のアフリカのイヴ
瓜売りが瓜売り歩く瓜市場瓜子姫には多すぎる種
深川砂村隠亡堀戸板返しのうらおもてお岩の顔が目減りする夜
旅ゆけば駿河の路は春がすみ男を上げるお蝶の茶柱
ぬばたまの首長姫の黒髪に行燈油を惜しみつつつけ
名月や千日前の啖呵売語るに落ちたシェヘラザード
白い空雪のなかでの姫はじめいばらの門にふと立ちどまる
この恨みまさかはらさでおくものか瀧夜叉姫には奉加帳のあて
竹婦人すきま風吹く首かしげ若竹のトリ芝浜の夢
黄昏の紫煙に煙るダンス場ナオミが踊る人間の床
陥穽の振り子の下の早がわり着たり脱いだり忙しないマハ
真昼間にくちなわ色の綱を引く朝顔婦人と夕顔婦人
夫狂歌には師もなく伝もなく、流義もなくへちまもなし。瓢箪から駒がいさめば、花かつみを菖蒲にかへ、吸ものゝもみぢをかざして、しはすの闇の鉄炮汁、恋の煮こゞり雑物のしち草にいたるまで、いづれか人のことの葉ならざる。されどきのふけふのいままいりなど、たはれたる名のみをひねくり、すりものゝぼかしの青くさき分際にては、此趣をしることかたかるべし。
大田南畝
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