2013年11月7日木曜日

狂歌──女性たち

『鬣』第12号に掲載された。

               

この口はどうしてそんなに大きいの首までつかれる赤ずきんの湯

暗黒の深夜の蔭の闇だまり鏡に映るアリスの左手

あずまやに千鳥格子の掛け布団むくむく動くアリスの宮夫妻

姫りんご身ぐるみ剥いで差しだすは西方浄土のアフリカのイヴ

瓜売りが瓜売り歩く瓜市場瓜子姫には多すぎる種

深川砂村隠亡堀戸板返しのうらおもてお岩の顔が目減りする夜

旅ゆけば駿河の路は春がすみ男を上げるお蝶の茶柱

ぬばたまの首長姫の黒髪に行燈油を惜しみつつつけ

名月や千日前の啖呵売語るに落ちたシェヘラザード

白い空雪のなかでの姫はじめいばらの門にふと立ちどまる

この恨みまさかはらさでおくものか瀧夜叉姫には奉加帳のあて

竹婦人すきま風吹く首かしげ若竹のトリ芝浜の夢

黄昏の紫煙に煙るダンス場ナオミが踊る人間の床

陥穽の振り子の下の早がわり着たり脱いだり忙しないマハ

真昼間にくちなわ色の綱を引く朝顔婦人と夕顔婦人


     夫狂歌には師もなく伝もなく、流義もなくへちまもなし。瓢箪から駒がいさめば、花かつみを菖蒲にかへ、吸ものゝもみぢをかざして、しはすの闇の鉄炮汁、恋の煮こゞり雑物のしち草にいたるまで、いづれか人のことの葉ならざる。されどきのふけふのいままいりなど、たはれたる名のみをひねくり、すりものゝぼかしの青くさき分際にては、此趣をしることかたかるべし。 
                     大田南畝

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