小林旭と高橋英樹が兄弟役といういまから考えると夢のようなキャスト。
二人の兄弟がまだ幼いころに、やくざであった父親が殺されて、しっかり者の兄(小林旭)とおっちょこちょいだが天真爛漫な弟(高橋英樹)へと成長し、やくざの争いに巻き込まれる。
50年以上前の映画で、まだ鈴木清順特有のカットの繋ぎや場面の様式化は表立っていない。
障子の左右で開け閉めするところや、豪雨のなか車のなかで兄弟が話し合う場面などに片鱗がうかがわれる。
とにかく驚くほどモダンな映画である。
それは日活特有の無国籍映画とも異なっていて、非常に抽象的な空間で事が運んでいく。
僅かに差し込まれる街の姿で、昭和であることがようやく確認できる程度だ。
映画内映像で、カラーのなかモノクロのフィルムが小林旭の足跡を辿るのだが、『リング』以降の映画内映像の無気味さを見事に表現している。
また、葬式帰りの小林旭が、清めの塩をもらうまで、母親と弟しかいない空間に兄の声だけが響き渡る演出が素晴らしい。
あえて分類すればやくざ映画ということになるのだろうが、仁義などそもそもまったく存在しないから仁義なき戦いも起きることはない。
兄弟の父親を殺した人物が昔気質のやくざものとして現れるが(黒一色の刺青が印象的)、その男にしても、抗争で父親を殺したわけではなく、金で頼まれて殺しただけなのである。
また、実録ものでいえば若頭にあたる小林旭が最後に命を狙われることになるが、それも抗争や親分の自己保身のためではなく、スパイとして付けた女と彼が愛し合ってしまったというほとんど理由にもならない理由のためなのである。
実はボスである男もその女を好きだったというような後付けにもならないようなことがほのめかされてはいるが、まるっきり説得力はない。
やくざ映画をまったく骨抜きにし、要素だけをとりだして、抽象的な空間でつなげてみせるというかいな力は尋常なものではない。
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