2014年8月17日日曜日

幸田露伴『評釈冬の日』初雪の巻13

小三太に盃取らせ一ッうたひ 芭蕉

 小三太は特定の人物の名ではない。ただその人柄をあらわすだけの仮の名である。旧註には、扈従の童であるとか子供だとしてある。主従のちぎりが深く、頼み頼まれる関係の侍などであろう。一句は前句を受けて、明日を必死の一戦と覚悟した最後の晩の名残の酒宴のおもむきである。織田信長が桶狭間の戦いの前に、人間わずか五十年と謡ったような面影が見え、謡には余裕のあるさまが見え、しかも凜たる様子もあらわれ、非常に潔く壮烈な様である。水攻めにあった高松の城、殺気を深く秘めた西條山、みなこうした光景があった。

 つけ句には承けると転じると流すとある。承ける句はややもすれば前句の奴婢となり注釈のようであり、一句の独立の美がなく、見苦しいものになるが、この句は素直に承けて、しかも面白い情景があり、出来事を述べただけで、前句と呼応して気味が通じ、精神がよくその情景を映しだす。けだし芭蕉にとっては易々たることだが、後人には及びがたいものだろう。

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