フランスでは、作家がポルノグラフィーをかくことが、少なくとも二十世紀前半くらいまでは伝統のようなものになっていた。ジャン・ポーランに『O情の物語』があり、バタイユには『マダム・エドアルダ』がある。アナイス・ニンのエロティカもそうしたものかと思っていたのだが、「まえがき」によると、仲間の貧しい芸術家たちを支援する為に書き始めたのだそうだ。「文学的売春館という異様な館のマダム」だったと本人はいっている。短編集で、それぞれ簡単に触れると、
小鳥たち:女子校の前に引っ越す露出症の男。
砂丘の女:夜眠れない男がさまよい歩く。砂丘で女に出会い、二人で歩きながら性交を続ける。女はロシアの過激派がパリで絞首刑にされたとき、見知らぬ男に後ろから犯されたことを語る。
リナ:妙に厳格なところのあるリナだったが、女友達である私と私の彼の家に行き、お香の催淫作用もあって奔放に振る舞う。
二人姉妹:姉が妹の彼と寝てしまう。妹も遊びのつもりで付き合っているのだから、と軽い気でいたのだが、実は妹は本気で彼を愛しており、二人が結婚することになると生気が失われ、老女のようになってしまう。姉の方もそれ以来快感を得ることができなくなる。
シロッコ:デーカにいるときに、二人の女性を知るようになったが、他の観光客とは異なり、挨拶を交わすこともなかった。シロッコが吹くとき、風が止むまでいたら、と二人の家に上げられる。そこで一方の女性のこれまでの(性)生活が語られる。
マハ:画家がゴヤのマハに似た女性と結婚する。しかし、女は厳格なカトリックだった。やがて画家は、放恣な裸体をさらす自分が描く彼女で欲望を満たすようになる。
モデル:箱入り娘がモデルの仕事に就き、様々な画家のところをまわる。
女王:画家が語る、娼婦の精髄のような女の話。
ヒルだとランゴ:ヒルだがランゴという男性に出会い、新しいエロティックな感覚を知るようになる。
チャンチキート:チャンチキートはブラジルにいるという小さな豚のような動物で、やたらに鼻が長く、女性の両脚のあいだに鼻を突っ込む。恋人の画家に天上の漆喰の乱雑な形をたどって絵を描いてもらう。
サフラン:名家に嫁に行ったが、夫は性交を最後まで終えることができない。ところが、ある日サフランの香りが催淫効果を及ぼし、性交に成功する。
マンドラ:夫のいる女性とのレスビアン関係。
家出娘:家出娘が男二人が住むアパートに転がり込んでくる。一種の三角関係。
確かに、バタイユの形而上学的ポルノとは異なり、ちゃんと興奮できるようになっている。
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