脚本、ナ・ホンジン、イ・シンホ、ホン・ウェンチャン。撮影、イ・ソンジェ。音楽、キム・ジュンソク、チェ・ヨンラク。出演、キム・ヨンソク、ハ・ジョンウ。
実際の起こった事件を題材にしているらしいが、事実と虚構の境目がどのあたりにあるのか、その辺はまったく詳しくないので、わからない。途中で実にやりきれない展開があるので、現実にはどうだったのか関心がないことはないが、創作と現実の事件との関係でいつも感じることだが、本当であったところで、そのこと自体に心を動かされるわけではないし、心を動かされないのだとすると、特に知るまでもないわけで、それはともかく…
まず惹かれたのはロケーションである。それほど大きくはないが、急勾配の道が四方から通っている山があり、それを取り巻くように街が広がっていて、山にはびっしりと住宅が立ち並んでいる。武蔵野育ちの私には目にしたことがない風景である。強いて言えば、渋谷が、一応坂があって、神泉のほうに抜ければ住宅地だということで、富士山と高野山ほどには似ているが、ボン・ジュノの『殺人の追憶』でも印象的だったが、韓国の街はいったん脇道に入り込むと、迷路でも描いているかのように複雑に入り組んでおり、そのことを考慮に入れると、キリマンジェロと丹沢ほどの相似になってしまう。
デリヘルの雇われ店長を演じるキム・ヨンソクが魅力的である。猟奇事件もさることながら、この映画はキム・ヨンソクの変化を見るための映画である。店の子が連続して二人行方知れずとなり、店長の彼は手付金を持って女が逃げたのだと思い、「見つけ出して、ぶっ殺してやる」と罵って、風邪で寝込んでいる娘を無理やり呼び出して、店員不足に当てるような、人遣いの荒い、さほど商売熱心でもない冴えない中年なのだが、ふとしたことから、行方が知れなくなった二人にかかってきた電話の番号が同じであることに気づく。てっきり組織的な人身売買かと思い、電話の主を捕まえるのだが、その男は組織などよりもよほど質の悪い男だった。
やる気のない男が、異変を感じ取ってから徐々に真剣になっていき、ついには頭も体もフル稼働になる様子が、急勾配の坂での全力疾走による追跡に始まり、ついには走りっぱなしになって、あくまでアクションとしてとらえられるのは、彼が元警官であり、どうやら終盤に至って会話で明らかになるところからすると、上司の尻拭いのためにやめさせられたらしいのだが、その彼が自らの推理に基づき、捜査する仕方が、元同僚たちとは、その対象においても、方法においても、まったく異なった軌跡を描くためである。人が本気になるときをとてもよくあらわしている。
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