2017年12月6日水曜日

桑原武夫『文学とはなにか』ーーノート




文学とはなにか

1.文学と科学。ローレンツなどの動物行動学が話題になる以前に書かれた文章であるだろうから、ファーブルの伝統が意外なところから芽を出したのを見てどう感じたのか聞いてみたいところだが、それでも科学のなかで小さな領域であることは確かで、むしろ、今日では後半の部分、現実を観察し、そのなかで実践をしている代表者として文学者があげられるかが問題になるだろう。

ファーブルのように自然界の中で直接の観察をすることは、今日むしろ稀れで
あって(そういう意味で『昆虫記』は文学である)、多くの科学者はラボラト
リで目盛りを読んでいるのだ。現実の社会、ないし自然に存在するものを直接
に見るのではない。つまりガリレオのように塔の上からものを落としてみた
り、フランクリンのように大空にタコを上げたりはしない。そうしたことは、
むしろ今日の文学者がしているといえる。文学者は自己の世界観を導きの糸と
して、現実を観察し、また現実の中で実践することによって(実践によってし
か見えないものがある)、集めた多くの経験を調整して、一つのまとまった経
験をつくる。それは言語シンボルによって表現されるから、当然抽象性をもつ
が、しかし作品の結末が結論なのではなく、そこへの過程が作品なのだから、
その点において一個の全体的な「もの」として、他の芸術作品と相通じる面を
もつ。

文学入門

2.よい本。これは「よい本」についてのおそらくはもっとも素晴らしい定義であると思う。そして、「ひどく正しい」ところを見いだすのが読書の快楽である。

よい本とは、初めからしまいまですべて正しい本という意味ではなく、多少の
錯覚があっても、正しいところはひどく正しい、という本のことである。そし
てわれわれが鍛錬されるのは、むしろそういう本によってである。





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