鈴木清順の大正ロマン三部作といわれるもののなかで、『ツィゴイネルワイゼン』と『陽炎座』は何回見たかわからないが、『夢二』はそれほどではなく、それでも5,6回は見ているだろうか。今回改めて見直してみて、もちろん十分面白いものではあるが、前二作には至らないと改めて感じた。
ひとつにはあまり開放感がない。室内のシーンが多く、外にでても、金沢の山中であるので、密閉感がある。それゆえ運動感がない。『ツィゴイネルワイゼン』の原田芳雄や藤田敏八は常に歩いていたし、『陽炎座』の松田優作も必死の形相で歩きまわったものだが、夢二役の沢田研二はどちらかといえば寝ころがっているだけなのだ。『ツィゴイネルワイゼン』は内田百閒、『陽炎座』は泉鏡花のいくつかの作品が組み合わされていたが(脚本は三作とも田中陽三)、『夢二』には原作といえるものがあるのか、実生活のどの程度の挿話が取られているのか、ロケーションや伊藤晴雨の元モデル、稲村御舟といった人物が実際に関わりをもったのか、夢二そのものにはさほど興味がない私にはよくわからない。
俳優が毬谷友子にしろ宮崎萬純にしろ、沢田研二にしろ坂東玉三郎にしろ、軽やかすぎる。清順的登場人物といえば、『ツィゴイネルワイゼン』でいえば藤田敏八、『陽炎座』でいえば中村嘉葎雄、そしてなんといっても大友柳太郎といった存在自体が画面にわだかまるような人物がもっとも魅力的なのだが、『夢二』にはそうした人物が登場しない。ちょうど核となるオブジェ、イメージが『ツィゴイネルワイゼン』の骨、『陽炎座』の酸漿であるのに対し、紙風船というふわふわした情緒的なものなのも残念。
広田玲央名は『陽炎座』でいえば加賀まりこの役割なのだが、いかんせん貫禄が不足している。もっとも大きな漬物樽につけられる場面は面白かった。
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