2015年8月12日水曜日

何か物足りない――カート・ヴォネガット『母なる夜』


第二次世界大戦中、ドイツで放送活動に携わる一方、放送を通じてアメリカに情報を送り、いわばスパイとして働いていた男の、戦争が終わってからの悲喜劇。

悲劇というのは、彼がアメリカのために働いていたことは、三人しか知らず(一人は死亡している)、アメリカやイスラエルからは裏切りものとしていつでも追い回される危険があるからだ。

喜劇というのは、ヴォネガット特有のことだが、また彼に影響を受けた村上春樹にも特徴的なことだが、深刻な内容がごく軽いタッチで描かれているからだ。深刻なことを軽いタッチで描くことには食傷気味である。

ダンディズムはいまでも惹かれるから奇妙なのだが、このポーズというのは、ダンディズムとも吉行淳之介的なデタッチメントとも異なっていて、ユーモアとも微妙に違い、どちらかといえばスノビズムという言葉に一番近いように思う。

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